大判例

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最高裁判所第二小法廷 昭和27年(オ)746号 判決

論旨は、原判決が本件買収計画の取消を求める訴を出訴期間経過後の不適法な訴として却下したのは違法であると主張するのである。

しかし、原判決の確定するところによれば、上告人の長男太田正は奥玉村中日向に居住し、上告人自身は北海道に居住しながら訴願に際しては、訴願書にその住所を右太田正方と記載して提起したのである。このような場合は、上告人は少くとも訴願裁決書の受領については右正に委せた趣旨と解すべく、正が訴願裁決書を受領した以上、その日から出訴期間は進行するものと解するを相当とする。若し所論のように本件のような場合にも訴願人が訴願裁決を現実に知ることを要すると解するならば、出訴期間は何時までも進行を開始しないことになつて、法律が出訴期間を定めた趣旨は没却されることに帰するであろう。論旨は、長男正に異議、訴願等の手続を委任したからと言つて、訴訟の提起まで委せたとはいえないというのであるが、訴訟の提起について委任がないからと言つて、出訴期間の進行しない理由はない。そして、原判決の確定するところによれば、本件訴願裁決書が右正に送達されたのは昭和二四年八月一七日であり、本訴の提起されたのが同年九月二三日であることは記録上明白であるから、原判決が本訴を自作農創設特別措置法四七条の二の出訴期間経過後の不適法な訴として却下したのは正当である。論旨は理由がない。

同第二点について。

論旨は、本件買収令書の交付に代わる公告は違法、無効であり、その取消を求める訴の出訴期間は進行を開始しないにかかわらず、原判決がこれを不適法として却下したのは違法であるというのである。

買収令書の交付に代わる公告は、当該農地の所有者が知れないとき、その他令書の交付をすることができないときに限られることは自作農創設特別措置法九条の規定上明白であり、従つて右の場合に該らない場合は、かりに公告をしても買収の効果は生じないものといわなければならない。しかしながらかりに処分が無効であつても、その処分の取消変更を求める訴については出訴期間の規定の適用があるものと解すべく、上告人の本訴請求の趣旨が買収処分の無効確認を求めるものであれば格別、買収処分の取消を求める趣旨である以上、原判決が本訴を出訴期間経過後の不適法な訴として却下したのは違法ではない。けだし、処分が違法であるかないかは適法な訴の提起があつた場合に判断すべきことであるからである。原判決が本件公告の適否について判断を加えなくても所論のように審理不尽の違法があるということはできない。論旨は理由がない。

以上説明のとおり本件上告は理由がないからこれを棄却することとし、民訴四〇一条、九五条、八九条を適用して裁判官全員一致の意見をもつて主文のとおり判決する。

(裁判官 霜山精一 栗山茂 藤田八郎 谷村唯一郎)

上告代理人弁護士菅原勇の上告理由

第一点 原審は上告人が買収計画の取消を求める部分の訴訟は出訴期間経過後に提起されたものとして却下したが、其の理由として、右の訴願書は上告人の住所を奥玉村字中日向と記載して提出され、これに対する裁決書は奥玉村農地委員会を通じて昭和二十四年八月十七日右訴願書記載の奥玉村字中日向二番地に居住する太田正に送達された。

右のように訴願裁決書が送達され、訴願人である控訴人(上告人)からすべてをまかされて控訴人の長男正においてこれを受取つた以上、たとえ控訴人が右裁決のあつたことを現実に知つたのはその後であつたとしても、右送達の日即ち昭和二十四年八月十七日に訴願書の裁決のあつたことを知つたと同様に解することを相当とすると云うにあるが、しかし仮に右のように異議訴願の手続等はすべて上告人の長男正が委せられていたからとて直に行政訴訟の提起までも委せられていたものと断ずべき根拠はない。蓋し訴訟行為は異議申立や訴願と異り権利関係の消長を左右する重大な事柄だからである。若しそれ上告人が実際北海道に居住して居り、岩手県の奥玉村の事は挙げてその長男正に委せてある事実が同村内における財産上の行為総てについて上告人に対する法律上の効果を生ずると云うならば、本件農地の占有(賃貸行為)についても亦上告人の行為となり、在村地主の小作地たる効力を生じて買収が出来ないと云わねばならぬ筋合であるに拘らず、此の場合においてのみ上告人の占有効力なしと云うに至つては論理の矛盾も甚しいものである。又上告人に対する行政処分の書類が正に対する交付を以て効力を生ずるものならば何故買収令書を奥玉村において正に交付しなかつたか、又上告人の現住地という北海道帯広市にも送達しないで普通人況んや他の道府県に居る上告人が容易に知ることの出来ない県報号外に依る公告という手段を取つたのか不可解である。又行政処分の取消変更訴訟の提起期間については自創法第四七条の二には当事者が其の処分のあつたことを知つた日から一箇月以内云々とあつて、処分書類の交付の日よりとか或は処分書類の送達に始まると云う如き民事訴訟法第三百六十六条第一項、同第四百十五条の如き趣旨の文言のない処から見るも当事者が知つたことと処分の書類が交付されたと云うこととは意義を異にする法理であること明である。然らば原判決は正に裁決書を交付した事実を以て遠隔の地に居住する上告人が即日これを知つたものと判示したことは法則を誤解したか或は正の権限の有無につき審理を尽さざる違法あるか理由不備の違法あり破毀を免れないものと信ずる。

第二点 原判決は控訴代理人が昭和二十七年六月の本件口頭弁論期日において、昭和二十五年九月十三日岩手県報号外に買収令書の交付に代る公告をして行つた買収処分の取消を求めたことは、これまた出訴期間経過後の新訴提起であつて不適法として却下したが、これまた審理不尽又は理由不備の違法あり破毀さるべきものである。即ち買収令書の交付に代る公告は自創法第九条但書の条件である該農地の所有者が知れないとき或はその他令書の交付をすることができないときの手段であるが、本件において斯る事実があつたか否かについては何等審理をして居らぬのである。寧ろ該農地所在地において其の権限あると見るべき上告人の長男がありと云いながら、或は又上告人本人が事実帯広市東五条南六丁目に居るものと云いながら、全然これらに対して送達交付を試みることなくして正に公告をしたことが全然違法にして何等効力なしと云わねばならない。然らば原審が右公告が漫然適法なるものと解してこれより出訴期間を起算したことは、法則の適用を誤つたものか審理不尽の違法がある。

故に仮に農地買収処分が買収計画、訴願裁決、買収処分等の段階が各個独立し出訴期間が各別に進行するものとするも、本件買収処分の出訴期間の始期が違法のため開始の効なく、従つて自創法第四十七条の二第一項但書にも該当しないものであるから、上告人の訴を却下したことは違法である。 以上

第一審判決の主文および事実

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は、「被告岩手県農地委員会が別紙記目の土地に対し、昭和二十四年二月一日の公告により為した買収計画は之を取消す。被告岩手県知事が昭和二十四年八月四日附を以て為した二四農地買第二号の訴願裁決は之を取消す。訴訟費用は被告等の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として、別紙記目の土地は原告所有の自作地及小作地であるが、被告岩手県農地委員会は右土地を不在地主の小作地として買収計画を樹立し、昭和二十四年二月一日之を公告し、原告は右買収計画に対し、被告岩手県知事に対して訴願したが、同年八月四日附二四農地買第二号を以て之を棄却した。然し原告は家事の都合上一時的に北海道に居住しているが、昭和二十年九月七日より原告長男太田正及原告其の余の家族全部を奥玉村の自宅に居住させて、自作地の耕作並小作地の管理をさせており、我が国の社会観念上原告自身の自作並小作地管理と毫も異らないから、右買収計画及訴願裁決は違法である。仍て之が取消を求める為本訴請求に及んだと陳述した(立証省略)。

被告等訴訟代理人は、主文第一、二項同旨の判決を求め、答弁として、被告岩手県農地委員会が原告所有の本件土地を不在地主の小作地として買収計画を樹立し昭和二十四年二月一日公告し、被告岩手県知事が右買収計画に対する訴願を同年八月四日附二四農地買第二号を以て棄却したこと、原告の長男夫婦が昭和二十年秋奥玉村に移住したことは何れも之を認めるが、原告の家族に本件土地を管理させていることは不知、其の余は否認する。原告は明治四十年以来北海道帯広に居住しているから不在地主である。仍て本件土地につき原告を不在地主として買収計画を樹立し、訴願を棄却したことは違法でないと陳述した(立証省略)。

第二審判決の主文、事実および理由

一、主  文

原判決を取消す。

控訴人の訴を却下する。

訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。

二、事  実

控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人岩手県農地委員会が別紙記目の土地につき昭和二十四年二月一日公告した買収計画を取消す。被控訴人岩手県知事が昭和二十五年九月十三日岩手県告示第四二九号を以つてした別紙記目の土地に対する買収処分を取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人等の負担とする。」との判決を求め、被控訴人代理人は、右買収処分の取消を求める部分にについては、訴却下の判決を求め、その他の部分については、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張は、控訴代理人において、

一、原判決摘示事実中(一枚目裏九行目)「自作地及び小作地であるが」とあるを「全部小作地であるが」と訂正する。

二、控訴人が本件裁決書を受領したのは、昭和二十四年八月二十五日である。

三、被控訴人岩手県知事は、昭和二十五年九月十三日岩手県報号外を以つて岩手県告示第四二九号として、買収令書番号岩手を一八一六所有者住所氏名帯広市東五条南六丁目太田新作と本件係争土地につき買収令書の交付に代る公告をした。

と述べ、被控訴人等代理人において、控訴代理人が当審において主張した右事実中本件裁決書を控訴人に交付したのは、昭和二十四年八月十七日である。また三の事実は争わないが、控訴人が当審において拡張した買収処分の取消を求める請求は、出訴期間経過後提起された不適法なものである。

と述べた外は、原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する(証拠省略)。

三、理  由

よつてまず本訴の適否につき按ずるに、控訴人の本訴請求は原審以来被控訴人岩手県農地委員会が自作農創設特別措置法(以下自創法と略称す)第三条第一項第一号の規定によつて樹立し、昭和二十四年二月一日公告した控訴人所有の別紙記目記載の土地についての買収計画の取消及び被控訴人岩手県知事が右買収計画に対する控訴人の訴願につき同年八月四日附でした訴願棄却の裁決の取消を求めるというのであつたが、当審における最終口頭弁論期日である昭和二十七年六月九日に至り右請求のうち被控訴人岩手県知事に対して訴願棄却の裁決の取消を求める部分を、同被控訴人が買収令書の交付に代え昭和二十五年九月十三日岩手県告示第四二九号を以つてした右土地の買収処分の取消を求める旨の請求に変更した。そして右請求の変更については、被控訴人において何等異議を述べないのであるからして、控訴人の右請求変更により従前の訴願棄却裁決の取消を求める部分は取下げられ、新に買収処分の取消を求める請求が附加されたものというべきである。従つて控訴人が本訴において維持するのは、右買収計画の取消及び買収処分の取消を求める請求に外ならない。

ところで、行政事件訴訟特例法第五条第一項第四項第五項、自創法第四十七条の二によれば、自創法による行政庁の処分で違法なものの取消または変更を求める訴は、当事者がその処分のあつたことを知つた日から一箇月以内にこれを提起しなければならないし、また処分の日から二箇月を経過したときは訴を提起することができない。そして右期間は処分につき訴願の裁決を経た場合には訴願の裁決のあつたことを知つた日または訴願裁決の日からこれを起算するというのである。本件において成立に争のない甲第二号証の一、二及び乙第二、三号証の各記載、当審証人菅原雄の証言当審における控訴本人尋問の結果並に口頭弁論の全趣旨によれば、控訴人は北海道に居住し現在に及ぶものであつて、郷里東磐井郡奥玉村には終戦後から長男太田正が居住しており、本件買収計画に対する異議、訴願等の手続はすべて長男正にまかせていたもので、本件訴願書にも訴願人控訴人の住所を東磐井郡奥玉村字中日向と記載して提出されたものであるところ、昭和二十四年八月四日附の本件訴願裁決書は、奥玉村農地委員会を通じて、昭和二十四年八月十七日右訴願書記載の東磐井郡奥玉村字中日向二番地の右太田正方に送達され、同人において、これを受領したことが認められ、右認定を妨げるに足る証拠はない。右のように訴願書が送られ、訴願人である控訴人からすべてをまかされていた控訴人の長男正においてこれを受取つた以上、たとえ控訴人が右裁決のあつたことを現実に知つたのは、その後であつたとしても、右送達の日即ち昭和二十四年八月十七日に訴願の裁決があつたことを知つたと同様に解するを相当とする。本件買収計画の取消を求める本訴の提起されたのは、右裁決書の日から一箇月以上経過した昭和二十四年九月二十三日であることは記録上明かであるから、控訴人の本訴請求中、買収計画の取消を求める部分は、出訴期間経過後に提起された不適法な訴として却下すべきである。

また自創法上の買収計画、訴願の裁決、買収処分等は段階的一連の手続的行為ではあるが、その各々が一つの行政処分として独立して訴訟の対象となり得るものであつて、その出訴期間は各行為毎に各別に定めるべきものと解すべきであるところ、控訴代理人は、前記認定のように昭和二十七年六月九日の本件口頭弁論期日において、被控訴人岩手県知事が昭和二十五年九月十三日岩手県報号外に買収令書の交付に代る公告をして行つた買収処分の取消を求めたのであるから、右買収処分取消の訴は同日新に提起されたものと解すべきである。従つてこれまた前記法条に照し出訴期間経過後に提起された不適法な訴として却下を免れない。

以上の次第で控訴人の本訴は全部不適法として却下すべきであるから、原判決は結局不当で取消を免れない。

よつて民事訴訟法第三百八十六条、第九十六条、第八十九条を適用して、主文のとおり判決する。

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